Bunkamuraル・シネマで開催中の篠田正浩監督レトロスペクティブで、『あかね雲』(1967)を鑑賞した。
本作は、篠田監督が松竹を離れ、岩下志麻らと設立した独立プロダクション「表現社」の第一作。能登を舞台にした水上勉の同名小説の映画化と知り、これまで全く知らなかった作品だったこともあり、俄然興味が湧いた。
物語は昭和初期の能登が舞台。貧しい村に暮らす娘・まつ(岩下志麻)は、徴兵された兄と病弱な父を抱え、輪島で女中として働いている。だが家計を支えるには十分ではなく、相談相手の女給(小川真由美)から景気の良い山代温泉で働くことを勧められる。心細い彼女に親身になって仲居の仕事を紹介してくれたのが、缶詰会社の外交員(山崎努)だった。まつは次第に彼に惹かれていくが、彼には脱走兵として軍に追われる身という重大な秘密があった。
戦争へと向かう時代の重苦しい空気と、当時の女性が生計を立てることの厳しさがひしひしと伝わってくる作品だ。俳優たちの気迫を捉える端正なカメラワーク、武満徹による重厚な音楽も見事で、篠田正浩と岩下志麻が全力で挑んだ作品であることが伝わってきた。
能登が舞台だけに、特にロケ地に注目して観た。主人公の両親が暮らす村は、なんと能登半島地震で最も復旧が遅れた地域の一つである大谷地区。「大谷の出身なら、平家の落人の隠れ里と言われるところだから、お武家の生まれか?」というセリフも印象的だった。
また、輪島港や朝市、往時の街並みが映し出されており、現在では貴重な記録映像としても興味深い。
一方、物語のもう一つの舞台である山代温泉については、これまで詳しく知らなかった。劇中では「北陸の三大名湯で、天皇陛下もお越しになった温泉」と紹介されている。加賀市にある温泉地だが、作品を観ていると、金沢と同様に古くから外部に開かれた土地柄だったことがうかがえた。
派手さはないが、能登の風土と時代の空気を丁寧に映し出した秀作だった。能登に通うようになった今だからこそ、より深く味わえた一本である。
受賞歴
キネマ旬報ベスト・テン 第8位
キネマ旬報主演女優賞(岩下志麻)
毎日映画コンクール主演女優賞(岩下志麻)
ブルーリボン賞主演女優賞(岩下志麻)※本作を含む出演作による受賞

