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『メキシコ麻薬戦争: アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱』

昨年11月にメキシコのバハ・カリフォルニア州にあるラパスに行った。
メキシコに入国は初めてであったが、ラパスは平和な街のようであった。
帰国後、リドリー・スコット監督の『悪の法則』を観てメキシコの麻薬ビジネスの恐ろしさを知る。そんなことでずっとメキシコという国が気になっていたところで、『メキシコ麻薬戦争』というその名もズバリの本を見つけて読んだ。
読み始めから映画が現実である事実を裏付ける衝撃的なルポルタージュであった。

この本は、現在の麻薬犯罪の現実を余すことなく描き、国境地帯で麻薬取引と暴力に依存して生きるナルコ(麻薬密輸人)たちを密着して取材し、凄惨な暴力の実態を明らかにする。
また、さかのぼってメキシコ建国の歴史や政治から文化まで網羅し、この暴力の現実世界にある背景を立体的に描いている。
かつて麻薬カルテルといえば、コロンビアのメデジン・カルテルが有名であったが、アメリカとの共同作戦と国をあげて戦いでボスのパブロ・エスコパルは殺害され撲滅された。
ところがコロンビアの麻薬カルテルはそのままメキシコに経由され、メキシコの麻薬カルテルに吸収され強大な力を持った。
実際に麻薬戦争というように、軍隊を組織するほどの巨大麻薬カルテルになっていて、アメリカやメキシコの国を挙げての撲滅戦争となっているが、いまだに終結に向かっていない。
原因としては、政治や警察組織の腐敗や組織の脆弱さがあげられているが、カルテルのボスを逮捕なり殺害しても次から次と別のボスが生まれることが大きい。
治安の悪化では、世界で最も危険な都市(殺人率の高い都市)のベスト10でメキシコは5都市も入っている。
『悪の法則』の舞台である国境の町シウダー・ファレスは世界No.2だ。(1位は中米ホンジョラスのサン・ペドロ・スラ)
メキシコはアメリカと国境を接する面積は広い、近年のグローバル化新自由主義の進展のひずみの中で急拡大したのも要因である。
産業格差や貧困が麻薬犯罪の温床となり、未成年の少年も殺し屋に簡単になっていく。
一般市民を巻き込んだ殺戮の実態はすさまじく、皆殺しの大量殺人や首切りといった見せしめ殺人などが日常生活に入り込んでいる。
このようなメキシコ社会の実態は、日本ではあまり報道されていない。
本書では、おそろしい実態は事細かに記述されているが、おぞましい写真がないのが救い。
ネットで『メキシコ麻薬戦争』を検索したらとんでもない画像が出てきた。(ショック!)
本書では、最後の章に世界各地で注目されている「麻薬合法化」の議論などを紹介し、問題解決に向けた方向性も指し示している。
日本では「麻薬合法化」の議論などとてもできないが、アメリカの禁酒法が悪法であったし、劇薬効果の手としてあるかとも思えた。
ウルグアイで世界初の合法化となり、アメリカでの一部の州が合法化となったのは、このような事情があったと知った。
著者のヨアン・グリロは、イギリス出身のメキシコシティ在住の報道記者。命がけのルポルタージュだ。
翻訳山本昭代、大変読みやすい良書といえる。

メキシコ麻薬戦争: アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱

メキシコ麻薬戦争: アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱

読んでいて並行して思い出すのが、ドン・ウィンズロウのメキシコ麻薬戦争を描いた小説『犬の力』
2010年に読んだ迫力の小説だったが、思えば登場人物が実在の人物をモデルにしているのが良くわかった!

 

スティーブン・ソダパーク監督の『トラフィック』ももう一度見直ししたい。