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「エレニの旅」ユーロスペース

巨匠テオ・アンゲロプロスの最新作。
エイゼンシュタイン監督の「戦艦ポチョムキン」で有名なロシア革命の始まりとなったバルト海オデッサから戦争孤児の難民としてギリシャにたどり着くところから始まるエレニの物語。
苦難のなかでなんとか掴んだ夫と子供の生活も戦争により引き裂かれる。夫は音楽の才能で米国に渡り、市民権を得るために戦場に出て、オキナワで戦死。双子の子供も戦争と内戦で敵味方に別れ戦死する。エレニの生涯は、歴史に翻弄される悲しみの生涯である。
アンゲロプロスの言葉(パンフレットより)
「私は『エレニの旅』を自分の母に捧げている。彼女は20世紀の始まりに生まれ、20世紀の終わりに亡くなった。つまり母は、20世紀のすべての冒険を体験してきたんだ。様々な戦争、逮捕、周りの人々の死・・・。母のことを考えた時、私は彼女のために何かをしなければならないという衝動を押さえることができなかった。そこで、彼女の世紀、20世紀についての映画『エレニの旅』を作ったんだよ。」
緊張感あふれるワンシーンワンカット長回しのキャメラアングルは、エレニの悲劇を歴史の証人としてフィルムに刻んでいるようだ。
白布の丘のシーツ、いかだの葬列、汽笛を鳴らし通り過ぎる列車、客船の停泊する港、ほどけていく赤いマフラーの糸、羊の死体をつるす大木、洪水で水没する村、なんとも凄みのある映像シーンのつながりだ。
水没してしまった村の廃墟となった家で、息子の亡骸に対面し、慟哭するエレニのクローズアップ、なみだのような満々とした水のなかでただ一人嘆き悲しむ姿のラストシーンは永遠に心に刻まれた。