高峰秀子著『忍ばずの女』を読む。
高峰秀子没後に著書が続々復刊している。
あとがきの養女・斎藤明美さんによると、「高峰の書籍をたとえ自費出版しても一冊残らず復刻するつもりだ。後世に残すつもりだ。」とある。
斎藤明美さんは養女になったことで、いろいろなバッシングがあるというが、これには大いに支持したい。
それは、戦争を挟んだ昭和という時代の日本映画界を支えた女優の見てきた記録としても、いち女性の生き方としても見事な内容をもっているからだ。
高峰秀子の文章は、素晴らしく読みやすい。
読みやすいということは、論点がはっきりしているからだ。
本書の前半は、高峰自身の女優論がや木下恵介、成瀬巳喜男監督等との演出についてが述べられている。
高峰の有名な逸話である『放浪記』の映画批評への反論が再録されてあるが、きっぱりと自信に満ちた主張で心地よい。
また、『浮雲』では、森雅之とともに役柄を創り上げていったが、森雅之の方は、評価があまり取り上げられなかったことで、映画から演劇へ活動の場が移っていったことが述べられている。
映画の量産時代であっても、俳優は真剣勝負で臨み、それが名作を生み出していった。
日本映画の活力の衰退とともに、(それには観客や批評家の観賞力の低下もある)高峰自身も女優には未練も残さずきっぱり引退した。
本書の表題作は、女優として何百本の作品に出演し、夫である松山善三の口述筆記としてシナリオ作成にかかわっていていたことから、唯一自身が創作した1本のシナリオである。
TBSのプロデューサーである石井ふく子の粘り強い交渉の結果、重い腰をあげて書かれた。
なんと石井ふく子の母は、高峰がかあちゃんというほど親しい間柄にあり、石井ふく子は幼友達であるという。
その竹下夢二のモデルにもなったという芸者育ちの母の激しい生き方が『忍ばずの女』として書かれたのである。
シナリオは、高峰が演じてもおかしくない芯の強い女性が描かれており、また大正、昭和初期の風情が活写されている。
さすがに何百本のシナリオを選別してきた眼力のある人だからこそ、気品のあるシナリオになっている。
ちなみにこのシナリオをもとにしたテレビドラマの公開データが記載されていないのが残念である。
いつの放映でどのような配役になったかは不明である。
これは高峰がドラマ化には満足しなかったからなのか?
知りたいところである。
- 作者: 高峰 秀子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2012/05/23
- メディア: 文庫
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