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『チョコレートと兵隊』『ハナコサン』神保町シアター

昭和と共に生きた大女優の高峰秀子1924年3月27日-2010年12月28日)の回顧上映会が神保町シアターで始まった。
ご存命であれば間もなく米寿を迎える。ちなみに昨年叔父が高峰秀子と生年月日が同じとの報告を受けてびっくりした。
この世代の人たちは激動の昭和時代を生き抜いてきた。
今回は、成瀬巳喜男の名作を中心としたラインナップだが、神保町シアターでは没後初めてではないだろうか。
もともと高峰秀子の上映会は人気が高いので混雑が予想される。
戦時中の映画が何本かあるが、特にフィルムセンターからの貸出される『チョコレートと兵隊』(1938)と『ハナコサン』(1943)は今回の目玉作品である。
昼休み職場を抜け出して夜の回のチケットを手に入れた。案の定、上映前に早くも満員札度めであった。
『チョコレートと兵隊』は、巻頭に2004年に米国UCLA・テレビアーカイブスから寄贈されたことの感謝の字幕がでる。つまり最近発掘された映画である。
藤原鎌足のお父さんが子供たちと釣りをしているシーンから始まる。
その中にいる高峰秀子の役は隣の家のお姉さんである。すらりと伸びた手足が目立ち伸び盛りの愛らしい元祖国民的アイドル少女のたたずまいだ。
ここでチョコレートをおやつに食べるていると、包装紙を捨てないで点数を100点までためるともうひとつタダでもらえるとの会話がある。
そしてやさしいお父さんはその後、兵隊に招集される。お父さんは戦地で子どもためを思ってチョコレートの包装紙を集める。
戦友たちも快く協力しあい沢山集めてお菓子会社に送り、大量のチョコレートが子どもの元に届く。
それと同時に父親の戦死の訃報も届いたというお話であった。

戦時中であるのに反戦映画にも成り得るほど戦争の悲しみが、子どもを通してキチンと描かれている。
戦意高揚と云えるところは、沢村貞子のお母さんが息子に「お父さんのような立派な兵隊になりなさい」と言って、
兵隊志願の息子が将来りっぱな兵隊になって敵をやっつけますと誓うセリフがあるところぐらいか。
沢村貞子はこの頃から戦後も容貌がずっと変わらないのではないか。
子どもたちが原っぱで遊んだり、紙芝居を楽しみにしているシーンなどが随所にあり、戦争の影はあまり感じられなかった。
藤原鎌足成瀬巳喜男監督の「秀子の車掌さん」でも朴訥なバスの運転手をしていた。


『ハナコサン』はプリント極上。太平洋戦争も敗戦の色が強くなってきた時期であるのにマキノ正博監督によるミュージカルである。
冒頭からバスビー・バークレイ監督の米国ミュージカルのような俯瞰ショットがあり宝塚のレビューが満載されており驚き。
宝塚出身の轟夕起子と人気歌手の灰田勝彦が軍歌や戦中歌謡で歌い踊る楽しいホームドラマ。
高峰秀子は灰田の妹に扮するモダンな少女で子犬をつれて登場する。
まったく困難や屈託のない市民生活に唖然としてしまった。
映画としては、轟と灰田が恋人時代から、結婚して子供まで生まれて、最後は夫として戦地に送り出すところまでで、数年の時を経ているのだが軽快なテンポで描かれる。
途中に戦時訓練や空襲警報などあるが市民が協力しあって明るく乗り越えていく。
隣組の人たちと広い公園か浜辺のようなところでピクニックをするのか何かを目指して歩き出す。
するとレビューの女性たちが登場し踊りだすことに切り替わるシュールなシーンがある。
終盤も夫を戦場に送り出すところで轟が夫に何かをしてやりたいと思い悩み、ついにはでんぐり返しをしたり、おかめの面を頭の後ろにかぶって踊るという不思議な終わり方をする。
のちにツイッターで知ったのだが、マキノ監督と轟は当時実際の新婚夫婦で子どもの出来てこのような状態だった。夫の出征に涙するところを検閲で切られたため、でんぐり返しのシーンとなったとのことだった。
なるほど不思議なシーンではあるが、より悲しみが裏に隠れているような気がした。
『チョコレートと兵隊』と『ハナコサン』との間には、戦時体制として5年の月日が経っている。
戦局が厳しくなっているのは明らかで検閲という戦時統制の違いが作品に大きな影を落としている。
観ていて切なくなるほど、この時代を生きるのは大変だったと感じるのであった。

『チョコレートと兵隊』S13('38)/東宝東京/白黒/スタンダード/1時間14分
■監督:佐藤武■原作:小林勝■脚本:石川秋子■撮影:吉野馨治■音楽:伊藤昇■美術:吉松英海■出演:藤原釜足沢村貞子高峰秀子、小高まさる、若葉きよ子、霧立のぼる、横山運平
『ハナコサン』S18('43)/東宝東京/白黒/スタンダード/1時間11分
■監督:マキノ正博■原作:杉浦幸雄■脚本:山崎謙太、小森静男■撮影:木塚誠一■音楽:鈴木静一■美術:北川惠司■出演:轟夕起子灰田勝彦高峰秀子、山本礼三郎、英百合子、山根寿子、岸井明